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本で振り返る一年

この一年を振り返るにはと思いつつ、読んだ本でも紹介してみることにする。
種類から言えば、仮想体験可能な経済小説が最も多い。その中で印象的なものを。

■新・燃ゆるとき 高杉良
経済小説の雄・高杉良作品は、ほぼ主要作品を制覇。会社や産業の実態に深く入り込む内容、そこでもがきチャレンジしている若手、中堅社員、経営者の姿から、多くのことを学び、自身のモチベーションを上げてくれる。
新・燃ゆるときは、マルちゃんブランドで知られる東洋水産が、アメリカに子会社・現地工場を設立し、セクハラ事件や労働組合問題、業務改善を団結して乗り越えながら、成功へと導いていく過程を描く。ブラジルでは、カップラーメンのことをマルちゃんと呼ぶという話を聞いたことがあるが、その一例であるアメリカでの取り組みを知れば、その理由にも納得がいく。組織で働くことのやりがい、日本の企業がグローバルに展開する秘訣を教えてくれる。


■烈風 高杉良
経済産業省を舞台に官僚、マスメディア、財界、政界を巻き込む権力闘争が見応え。1993年に実際に起った産業政策局長の更迭事件が題材で、組織の中でのリーダー論、組織が抱える理不尽さ、マスメディアや政界等が強い影響を持つ官僚組織の複雑さを体験することができる。


■運命の人 山崎豊子
人の内面をも描く山崎豊子の小説は、いつのまにか主人公へと入り込み、その感情の起伏までシンクロさせられる。中国残留孤児を描く「大地の子」、大本営参謀からシベリア抑留を経、伊藤忠商事会長までのしあげる瀬島龍三をモデルとした「不毛地帯」、日航機墜落事故を題材とする「沈まぬ太陽」、大学病院の権力闘争を描く「白い巨塔」等々、心に残る作品が多い中、この作品も、一新聞記者による違法行為と歴史教科書で学んだ外務省秘密漏洩事件の真相に迫る、迫真の一冊。


■ベイジン 真山仁
映画化もされたハゲタカの著者・真山仁の作品。舞台は中国、北京五輪に合わせて巨大原子力発電所を稼働させる使命を持つ当局幹部と、安全を絶対の優先とする技術提携先の日本メーカー技術者との激しいやり取りが、中国共産党というベールに包まれた政治体制を背景に描かれる。中国の根本的な仕組みを知ることができるおすすめの一冊。
2008年刊行の著書ながら、ここで描かれる原発事故が、まさか現実に起きるとはと彼の着眼に驚いたもの。この本を読んだなら、「マグマ」により地熱発電の現状を知り、原発事故後の在り方を政治家の視点から問う今夏刊行の「コプラティオ」まで押さえておくことをおすすめする。いずれも真山仁著で、原発事故を一度掘り下げたからこそ描ける内容に、読み応えがある。


■なぜリーダーは「失敗」を認められないのか リチャード・S・テドロー
小説から離れてビジネス書を。ハーバード・ビジネススクール教授が、これまで実際に企業で起きた事例を基に、失敗への教訓を示す。その失敗の原因は、否認にある。不都合な事実の否認、経験則の否認が、避けられた失敗、当然避けるべきであった失敗をもたらす。フォード、タイヤ業界、A&P、シアーズ、IBM、コカ・コーラ、デュポン、インテル、J&Jと、アメリカトップ企業を舞台にした失敗に至る判断の誤りを検証していく。否認による失敗が繰り返される事実。自分ならどう判断できるか。ビジネススクールに通っているつもりで、勉強していきたい。


■コンサルティングとは何か 堀紘一
コンサルティングとは、答えを教えることではなく、考えることが仕事。自前主義にこだわり、傭兵を雇い時間を買う欧米との発想の違いが、日本のコンサルタントの活用の幅を狭めている。ボストンコンサルティング社長として、日本にコンサルティングを根付かした人物の話は、コンサルタントを目指したい人、コンサルタントの役割を担いたい人に、大いに参考になる。


■下流志向 内田樹
内田樹という人物を認識してからのここ3年、彼のものの見方、分析がおもしろく、なんだかんだで毎年3,4冊程度の著書を読んでいたりする。フランス現代思想を専門とする神戸女学院大学文学部教授という堅苦しい肩書は、彼の自由な思考を押しとどめない。メディアの社会的存在意義を問う「街角のメディア論」、教育の在り方を問う「街場の教育論」に続き、かつて耳にした下流志向が、彼の著書と知り文庫本を見つけたのを機に購入。
2005年の講義を主体とするが、学ばない子供たち、働かない若者たちという現状は、いささかも改善することはない。現在の、いやこれからもっと悪化するであろう若者たちの思考の一端を理解するのに、必読の書と言える。


■采配 落合博満
彼の理にかなう思考法が好きだし、そこに至る過程をさらに知りたく、大いに興味を持って購入。戦況が悪化しようとも動じず、戦況を分析しながら必要な手を打つ姿勢は、まさに現場のリーダー。経営者の思考より、まさに今役に立つリーダー論は、ビジネスでそのまま応用が可能。
人の育て方、活かし方、結果論ではない、成功するための手段がそこに並ぶ。彼のチームで野球ができればおもしろいだろうなと思う。それは、自分のチームでどうリーダーシップを発揮すれば、仲間がおもしろく仕事ができるかにつながる。仲良しチームではない、信頼で結ばれ、能力を引き出し、より高みを目指す取り組み。自分にない色(能力)を使う勇気が、絵の完成度を高めてくれるという姿勢。
最後に語る、「大切なのは、何の仕事に就き、今どういう境遇にあろうとも、その物語を織り成しているのは自分だけだという自負を持って、ご自身の人生を前向きに采配していくことではないだろうか」「どうすれば成功するのか、どう生きたら幸せになれるのか、その答えがわかれば人生は簡単だ。しかし、常に自分の進むべき道を探し求めること、すなわち自分の人生を「采配」することこそ、人生の醍醐味があるのだと思う」「「今の自分には何が必要なのか」を基本にして、勇気をもって行動に移すべきだろう」。勇気をもらう言葉である。


■その他
大人の流儀(伊集院静)は既に紹介済み。オーガニック革命をはじめとする高城剛も、前向きな姿勢に影響を受ける。ウォーレン・バフェット関係は、バフェットの株主総会や賢者の教えで、長期投資の考え方の参考に。北方謙三の史記は、4ヵ月ごとの単行本を継続購読し、ようやく6巻目に入ったところ。ドラッカーのマネジメントは未だ読み終えていないので、冬休みの課題と、今年も、いろいろな本に手を出してきたところ。


本は、日経新聞日曜版での新刊紹介を除き、基本、本屋でインスピレーションを受けての出会いがあるかどうか。そういう面では、メガ本屋の乏しい山口県では、出会いの機会がかなり制限されてくる。広島時代の仕事帰りにゆっくり時間をかけて、平積みの表紙に目を通していくあの時間がないことは、なんとも残念なことである。

お気に入りの作家の本は次々読み終えていくし、また新たな発掘をしていかねばとも思うところ。毎年減っている読書タイムをしっかりと確保する。出張の際の信号待ちが、メイン読書タイムなんてことにならないようにしていきたいところで。


さて、余談として、コミック編は、紀元前200年頃、秦王朝の中華統一までの道のりを描く「キングダム」が、中華群雄割拠の春秋戦国時代を将軍を目指す戦争孤児からの視点で描く、その詳細な描写、充実した内容ともに秀逸なおすすめの作品。冬休みの暇つぶしにでも。
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Author:hiro

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